今回は、筑波書房の「切り花の鮮度保持」をご紹介します。
ページ数:238p
寸法:21 x 14.8 x 1.6 cm
出版社:筑波書房
刊行日:2000-05
概要
こちらの本は、切り花の鮮度が劣化する原因とそのメカニズムや、品質保持剤(エチレン阻害剤など)のように鮮度の劣化を防ぐ様々な技術を紹介・解説しています。
切り花の流通にとって大敵である花の萎凋(しおれること)・落花には、植物が生成する植物ホルモンの一種であるエチレンが関与しています。
本書の冒頭では、このエチレンが生成されるメカニズムを、ACC合成酵素やACC酸化酵素、エチレン受容体の働きにふれながら解説しています。
また、軽くではありますが、オーキシンやジベレリン、サイトカイニン、アブシジン酸など他の植物ホルモンについても、その組成式とともに植物の老化への影響を解説しています。
つづいて、エチレン阻害剤などの品質保持剤について、その種類や作用を詳しく解説しています。
代表的なエチレン阻害剤として、チオ硫酸銀錯塩(STS)が解説されており、STS処理された切り花の花持ち延長効果や調整方法、また、代替薬剤の候補もその品質保持日数とともに紹介されています。
他の品質保持剤としては、栄養源として糖の添加についても、8ページ程度の紙面を割いて、しっかりとした解説があります。
4章では、予冷や貯蔵、輸送技術と、それらが切り花に与える影響について解説してあります。
貯蔵技術の紹介の部分では、湿式やPE100包装などでMA包装をした上で、一定日数貯蔵した際の、花持ち日数の試験データが掲載されています。
5章では、つぼみ段階で収穫した切り花を利用する、いわゆるつぼみ収穫について紹介。カーネーション、スイートピー、シュッコンカスミソウ、キクのつぼみ収穫について、開花液や、花持ち日数、注意点などが解説されています。
それぞれの花の紙面分量はそれほど多くないので、それぞれの花のつぼみ収穫の要点を述べた形となっています。
6章は、遺伝子組み換えなどにより行われている花持ち性の改良の現状や、今後の展望が語られています。
7章は、収穫後に切り花が輸送されるまでの工程を現場の写真付きで解説しています。
8章は、アルストロメリアやカーネーションなど19種類の花について、個別に下記の点を解説しています。
・特徴
・収穫時の注意事項
・阻害剤などの前処理
・予冷、貯蔵
・輸送と水あげ
・糖、抗菌剤などの後処理
・その他の注意点
冒頭から化学式による老化メカニズムの解説や試験結果が並ぶため、やや難しく感じますが、そのあとは花持ち日数データ付きで、品質保持剤、その他鮮度保持技術が解説されていますので、花持ちに悩まれている方は一読をオススメします。
なお、本書の著者が2016年に誠文堂新光社より、下記のような本書と似た内容の書籍を出しています。
私はまだ読んでいないため詳細は分かりませんが、切り花などがカラー写真で載っているようです。
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目次
はじめに
第1章 切り花の生産動向と流通
- 花きの生産動向
- 切り花の生産動向
- 輸入の動向
- 市場の動向
- 流通の動向
- (1)切り花の流通
- (2)共選と個選
- (3)切り花の取引
- (4)小売り販売の状況
- 品質保持期間の表示
第2章 切り花における収穫後の生理機構
- 収穫後の生理機構研究の重要性
- エチレン代謝と切り花の老化
- (1)老化とエチレン
- (2)エチレン生合成経路
- (3)花の萎凋・落花とエチレン
- (4)エチレン生合成に関与する遺伝子の花の老化にともなう発現
- (5)エチレン受容体
- エチレン以外の植物ホルモンと切り花の収穫後生理
- (1)オーキシン
- (2)ジベレリン
- (3)サイトカイニン
- (4)アブシジン酸
- 老化にともなう糖質、タンパク質および核酸代謝の変動
- (1)老化と糖代謝
- (2)老化とタンパク質および核酸代謝の変動
- 切り花の老化と生体膜
- (1)老化と生体膜
- (2)生体膜脂質組成の変化
- (3)老化にともなう生体膜の流動性と相転移温度の変化
- (4)老化にともなう生体膜組成とエチレンとの関係
- 花の老化にともない発現する遺伝子
- 受粉と傷害により誘導される老化・萎凋
- (1)受粉により誘導される老化・萎凋
- (2)老化促進の機構
- (3)受粉と傷害により誘導される老化・萎凋
- 切り花の水分生理
- (1)切り花の老化にともなう水分状態の変化
- (2)導管閉塞の原因
- 切り花の開花生理
- (1)切り花の開花
- (2)開花にともなう花弁細胞肥大の機構
- (3)開花と植物ホルモン
- 切り花を生産する環境条件と収穫後生理
- (1)温度
- (2)光
- (3)栽培方法
- (4)キクの栽培環境と花持ち
- 切り花を保持する環境条件と収穫後生理
- (1)温度
- (2)湿度
- (3)光
- (4)風
- 収穫後生理まとめ
第3章 品質保持剤
- 品質保持剤の種類
- (1)前処理剤
- (2)後処理剤
- (3)つぼみ開花剤
- 品質保持剤の利用状況
- 品質保持剤の成分
- (1)エチレン阻害剤
- (2)糖
- (3)抗菌剤
- (4)界面活性剤
- (5)植物成長調節剤
- (6)バラ切り花に有効な前処理剤
第4章 予冷、貯蔵および輸送技術
- 予冷技術
- (1)予冷の重要性
- (2)予冷の方法
- (3)予冷の効果
- (4)予冷した切り花の輸送
- 貯蔵技術
- (1)貯蔵方法
- (2)CA貯蔵とMA貯蔵
- (3)貯蔵中の温度と光環境
- 輸送技術
- (1)輸送方法
- (2)輸送の温度
- 貯蔵・輸送用資材
- (1)給水資材
- (2)包装用資材
- (3)蓄冷材
- (4)機能性段ボール
- (5)エチレン除去資材・機器
第5章 つぼみ段階で収穫した切り花の開花調節・鮮度保持技術
- つぼみ段階で収穫した切り花利用の重要性
- つぼみ段階で収穫した切り花利用の利点
- (1)出荷不能のつぼみの強制開花
- (2)2番花等の開花促進による増収効果
- (3)施設の占有期間の短縮
- (4)不良環境、病虫害の回避
- (5)出荷調整
- (6)花持ちの延長
- (7)輸送適正の向上
- カーネーションのつぼみ収穫・貯蔵・開花調節
- スイートピーのつぼみ収穫
- シュッコンカスミソウのつぼみ収穫による「黒花」発生の回避
- キクの一斉収穫
- つぼみ収穫の問題点
第6章 育種による花持ち性の改良
- 従来育種による花持ち性の改良
- (1)カーネーションの花持ち性の品種間差
- (2)花持ち性が改良されたカーネーションの育種
- (3)エチレン感受性の早期検定法
- (4)ガーベラの花持ち性育種
- (5)バラの花持ち性の品種間差
- 遺伝子組換えによる花持ち性の改良
- (1)エチレン生合成に関与する遺伝子の導入による花持ち性の向上
- (2)エチレン受容体遺伝子の導入による花持ち性の向上
- (3)エチレン代謝にかかわる遺伝子導入の問題点
- (4)エチレンに対する感受性の低い花きの花持ち延長に有効な遺伝子はあるのか
- 花持ち性育種に関する今後の課題
第7章 切り花取り扱いの実際
- 収穫から輸送までの取り扱い
- 貯蔵および観賞時の水と容器
- (1)温度
- (2)湿度
- (3)光
- (4)風
- (5)気相
- キク自動選花梱包施設「マムポート」
- 品質保持剤処方の開発・利用方法
- (1)エチレンに対する感受性が高い花であるか
- (2)多数の小花から構成される切り花であるか
- (3)葉の黄化が問題となるか
- (4)水あげが問題となる切り花であるか
- (5)市販品質保持剤の利用方法
- 切り花の鮮度保持を検定するための環境条件
- 切り花の鮮度・品質の評価手法
第8章 切り花の鮮度保持各論
- アルストロメリア
- カーネーション
- ガーベラ
- キク
- キンギョソウ
- グラジオラス
- シュッコンカスミソウ
- スイートピー
- スターチスシヌアータ
- ストック
- チューリップ
- デルフィニウム
- トルコギキョウ
- ニホンスイセン
- ハイブリッドスターチス
- バラ
- ユリ類
- 洋ラン類
- リンドウ
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