家畜生産の新たな挑戦 (生物資源から考える21世紀の農学)

家畜生産の新たな挑戦

 

今回は、京都大学学術出版会の「家畜生産の新たな挑戦 (生物資源から考える21世紀の農学) 」をご紹介します。

 


ページ数:280p

寸法:21.2 x 14.6 x 2.6 cm

出版社:京都大学学術出版会

刊行日:2007-07-01

概要

 

こちらの本は、和牛を中心に、人工授精などの交配技術や霜降りができるメカニズムなど畜産技術について、複数の畜産専門家が紹介・解説します。

また、遺伝子組換え技術やクローン技術、地球環境を考えた環境保全型・循環型畜産の模索などについても語られています。

 

第1章は、野生動物が家畜化する流れや両者の違い、さらに和牛のルーツと改良の歴史について紹介されています。

和牛について、枝肉市場に出荷された肥育牛の枝肉形質記録(フィールドデータ)を用いて検定を行い、選抜・交配していく改良方法と、その成果を解説しています。

その他、ゲノム解析や得られた遺伝子情報による選抜についても考察があります。

 

第2章は、牛の繁殖技術について紹介しています。

人工授精技術について写真や図を用いて解説。

その他に、遺伝子組換え技術やクローン技術などの動物バイオテクノロジーについてメリット・デメリット、今後の展望について語っています。

 

第3章は、日本の肉用牛の歴史や、現在の肉牛の肥育技術が紹介されています。

また、霜降り牛の生産に重要な脂肪交雑の発生メカニズムについての解説や、牛肉のおいしさの要因についての考察、安全性確保のための提言がなされています。

 

第4章は、乳牛に焦点を当て、乳生産の歴史や乳ができる仕組みについて紹介。

また、スーパーカウに代表される高泌乳牛の生理や乳量増加のポイントについても紹介しています。

その他に、牛が温暖化に与える影響の考察や、逆に暑熱ストレスが乳牛に与えるダメージについても解説しています。

 

第5章は、東南アジアの一部で今も行なわれている在来家畜の伝統的な飼養管理を考察しています。

在来家畜の特性、特にその粗食耐久性をデータに基づいて解説し、在来家畜による持続可能な農業の可能性を探っています。

 

第6章は、日本での牛肉生産の発展の過程や、消費量・自給率の他国との比較、世界の牛の様々な生産システムについて解説しています。

また、枝肉市場における枝肉価格と格付けの関係や、BSEの価格に与えた影響についても考察が記載されています。

その他に、クローン技術やゲノム解析による選抜、環境保全型畜産についても語られています。

 

第7章は、牛の登録・登記証明書についての説明や、BSEが発端で制定されたトレーサビリティ法に基づく個体識別番号の付与と店頭表記などの解説が、登録・登記証明書や牛肉パッケージラベルの見本写真とともに述べられています。

また、畜産の発展にともない、飼料自給率の低下や排泄物の環境負荷が増加していることに対する懸念が語られています。

循環型農業を語る流れの中で記載されている、GPS首輪を用いて牛を林内放牧する実験は興味深かったです。

 

第8章は、BSEや鳥インフルエンザなど大きな問題となった家畜の病気の症状や被害、その発生原因、市場がグローバル化している中で病気の拡大リスクが高まっている現状について解説しています。

またあわせて、対策としてのリスク管理についても考察しています。

 

家畜、特に和牛の生産実態や、改良技術について様々な視点から書かれており、畜産で利用されている技術を幅広く知りたい方にお勧めです。

複数の著者が環境保全や循環型農業に言及している点も興味深いです。

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目次

 

第1章 和牛はわが国固有の遺伝資源-佐々木義之

はじめに

  1. 野生動物がどうして家畜になったか-イノシシを家畜にしたものが豚である
    • (1)いつ頃家畜になったか
    • (2)家畜化のきっかけはなにか
    • (3)家畜化によってどう変わったか
    • (4)いま世界にどんな家畜が飼われているか
  2. 反芻動物の不思議
    • (1)反芻動物は4つも胃をもっている
    • (2)第一胃の中におびただしい数の微生物が
    • (3)反芻動物はセルロースも利用できる
    • (4)良質のタンパク質食品を生産する
    • (5)反芻動物と微生物そして微生物同士の共生
  3. 和牛はどこから来たか
    • (1)渡来弥生人とともに
    • (2)外国種との交雑,そして改良
    • (3)農耕用から肉用へ
  4. 和牛改良と線形代数とコンピュータ
    • (1)選抜
    • (2)環境を揃える
    • (3)育種価を推定する
    • (4)遺伝的改良の成果
  5. 和牛でもゲノム解析
    • (1)遺伝性疾患の原因遺伝子をとらえる
    • (2)生産形質の責任遺伝子をマークする
    • (3)責任遺伝子を同定する
    • (4)DNA情報を和牛改良に活かす
  6. 上質牛肉の輸出を考えてみては
    • (1)放牧による低コスト化
    • (2)体細胞クローン技術の活用

 

第2章 牛をふやす-今井 裕

はじめに

  1. 人工的に牛をふやすということ
    • (1)人工授精の実際
    • (2)人工授精の必要性
    • (3)精液の採取と保存
    • (4)凍結精液の出現
    • (5)家畜改良への貢献
  2. 雌側からの家畜改良
    • (1)受精卵移植
    • (2)受精のタイミングは雄牛が一番よく知っている?
    • (3)人工授精や受精卵移植が最近おかしい
  3. 牛は生涯で何頭の子牛を生産する?
    • (1)排卵誘起
    • (2)卵子の体外成熟
    • (3)体外で受精を再現する
  4. 生命操作の時代
    • (1)遺伝子組換え技術
    • (2)遺伝子組換え技術の問題点
    • (3)多能性幹細胞への期待
  5. クローン(核移植)技術
    • (1)クローン技術の歴史
    • (2)哺乳動物におけるクローン技術の応用
    • (3)体細胞からのクローン動物の生産
    • (4)体細胞クローンと発生異常
    • (5)クローン動物は正常か?
    • (6)クローン技術の今後
    • (7)クローン技術と遺伝的多様性
    • (8)クローンはオリジナルを越えられるか?
    • (9)遺伝子組換え技術とクローン技術
    • (10)体細胞のリプログラミング

おわりに

 

第3章 肉牛を育てる-矢野秀雄・木村信熙

はじめに

  1. 日本の肉用牛の特徴と飼育の歴史
    • (1)明治維新前
    • (2)明治前・中期
    • (3)明治後期
    • (4)大正期・昭和前・中期
    • (5)第二次世界大戦後
    • (6)近年-現在
  2. 肉牛の成長
    • (1)肉牛の体型
    • (2)体の各組織の成長
    • (3)品種や性による成長の違い
    • (4)栄養による成長の調節
  3. 肉牛の肥育技術
    • (1)肥育体系と飼料
    • (2)肉質と飼養管理
  4. 脂肪交雑のメカニズム
    • (1)筋肉と脂肪交雑
    • (2)霜降り肉の作り方
  5. 牛肉のおいしさとそのコントロール
    • (1)牛肉のおいしさ
    • (2)脂肪酸組成とおいしさ
    • (3)脂肪酸組成への影響要因
  6. 安全な牛肉の生産
    • (1)健康な肉牛の飼育と飼料
    • (2)無薬・減薬,環境保全飼育の模索と問題
    • (3)牛肉の安全性確保に関する法規制とトレーサビリティ制度

おわりに

 

第4章 スーパーカウとそれをとりまく環境-牛乳生産の未来-久米新一

はじめに

  1. 乳牛の泌乳能力に限界はあるのか?
    • (1)乳生産の歴史
    • (2)乳牛の能力を支える胃袋(ルーメン)
    • (3)乳ができるしくみ
  2. スーパーカウの誕生
    • (1)スーパーカウの生理・生産機能
    • (2)乳量はどのようにすれば増えるのか?
  3. 乳牛に骨粗鬆症は発生しないのか?
  4. 地球の温暖化は牛によってもたらされる?
    • (1)メタンと地球温暖化
    • (2)暑熱ストレスの影響を防ぐ飼い方

おわりに

 

第5章 風土が育んだ家畜-熱帯の在来反芻家畜の特性-川島知之

はじめに

  1. 伝統的な飼養管理
  2. 栄養生理学的特性評価
    • (1)エネルギー・窒素代謝の評価法
    • (2)繊維の消化率
    • (3)養分要求量
  3. 持続的農業と家畜の役割

おわりに

 

第6章 畜産と社会の接点-広岡博之

はじめに

  1. 日本の畜産と牛肉生産
    • (1)日本の牛肉生産の歴史的発展
    • (2)牛肉の消費量と自給率
  2. 世界の牛の生産システム
    • (1)放牧ベースの生産システム
    • (2)複合生産
    • (3)加工業的畜産
  3. 生産システムの評価法
    • (1)利益
    • (2)経済効率
    • (3)生物学的効率
    • (4)経済効率と生物学的効率の比較
  4. 牛肉の価格の決定要因-BMSナンバーとBSEの影響
    • (1)枝肉価格に関与する要因
    • (2)BSE発見のインパクト
  5. 最先端技術の応用
    • (1)クローン技術
    • (2)雌雄生み分け技術
    • (3)マーカーアシスト選抜
    • (4)生命倫理の問題
  6. 21世紀における家畜生産の展望
    • (1)最先端技術による生産性の向上
    • (2)環境保全型家畜の構築
    • (3)有機畜産の展開

おわりに

 

第7章 古くて新しい近未来型家畜生産-守屋和幸・北川政幸

  1. 家畜管理の基本となる個体識別技術
    • (1)牛にも人間の戸籍に相当する登録・登記証明書がある
    • (2)人間の指紋に相当する牛の鼻紋
    • (3)牛にも血液型がある
    • (4)耳標による個体識別
    • (5)牛肉のトレーサビリティシステム
    • (6)より進んだ個体管理に向けて
  2. 家畜生産に伴う環境負荷とその対応
    • (1)わが国における農業の展開と現状
    • (2)家畜飼養規模の拡大と輸入飼料依存の増大
    • (3)食料・農業・農村基本法の成立
    • (4)家畜排せつ物の発生量と環境負荷
    • (5)家畜の糞尿利用
  3. 循環型農業のなかでの動物生産
    • (1)古くて新しい循環型農業
    • (2)飼料自給率の向上と循環型農業の再構築をめざして
    • (3)放牧の新たな意義
    • (4)林内放牧
    • (5)林内での牛の行動-GPS首輪を用いた解析

 

第8章 家畜生産の問題点と安全性の確保-BSEを中心に-小澤義博

  1. BSE(牛海綿状脳症)の発生とその起源
    • (1)BSEとは
    • (2)BSEはどうして起こったか?
  2. 鳥インフルエンザの発生とその起源
    • (1)鳥インフルエンザとは
    • (2)鳥インフルエンザはどうして起こったか?
  3. 家畜生産の現状と問題点(病気,ズーノーシス,抗生物質)
    • (1)グローバル化の時代と感染症の拡大
    • (2)食料貿易によるズーノーシスの広がり
  4. 食肉の安全性を確保するための手段
    • (1)BSEの安全対策
    • (2)第一の問題(検査の限界)
    • (3)第二の問題(全頭検査の意義)
  5. 食の安全性とリスク分析
    • (1)国際貿易上のリスク分析と国際基準
    • (2)病原体に汚染された畜産食品によるリスク
    • (3)残留動物用医薬品によるリスク
    • (4)ハザードの特定とリスク分析
    • (5)リスクコミュニケーション
  6. リスクアセスメントとリスクコミュニケーション
    • (1)リスク評価
    • (2)リスクコミュニケーション
  7. 動物福祉の考え方

 

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